すいの読書ノート

読書ノート、感想置き場

ハサミ男 ネタバレあり 感想

ハサミ男

 

ミステリー界隈では有名な小説。

タイトル自体は聞いたことがあったが、有名すぎて読むことに躊躇していた作品だった。

今回アップルブックのミステリーおすすめにまとめられていたので、これも何かの縁だと思い、買った。

 

元々叙述トリックで有名な作品。当然そこら中に伏線が張り巡らされていると思って読み始めた。だが早々にトリックに気づいた。以前同じトリックを使った作品を読んだことがあったので、「なんとなーくこうかな」と思って読み進めた。トリックがわかっていると伏線らしき部分も見えてきた。ただ文章が上手すぎてトリックには察しがついていながら、本当に自分の考えがあっているか不安になる部分が多かった。

 

同じトリックが使われている作品は、タイトルも何となくオマージュを感じられるような、それは考えすぎなようなタイトルなので、もしかしたらリスペクトしているのかもしれない。先にこっちを読んでいればいい感じに衝撃を感じられたと思うので残念に思う。しかし同じトリックの作品の衝撃が薄れてしまっていたかもしれないので複雑。

 

 

ネタバレ

トリックを最初からぶちまけているので注意

 

 

 

 

犯人は女性だが、叙述たる所以は途中まで男性が犯人だと思わせている部分。最初におや?と思った部分は目撃者が二人とわかった時。それまでは騙されるまま男性だと思っていた。叙述トリックとわかっていて一人称を信用することができないと思っていたのでそこから疑問に思った。わかっていると文中で頻繁に出てくる部分の「でぶ」はおそらく思い込んでいるだけではないかと思えた。それを明示するように明らかに犯人の妄想である医者が存在している。

犯人が自分自身に対しての「デブ」だと思っている思い込みがすんなりと受け入れられるのは、医者の存在があるからだと思う。あんなにはっきりした妄想の医者の存在より、太っていると思い込んでいる方が理解しやすいから。よくよく考えると作中では食事をしている場面よりも吐いている場面のほうが多いので、その部分に注目すると太っていることに疑問を覚えるかもしれない。

この作品の文章が上手いと思う部分は、医者が地の文にそのまま出てきて場面の説明もなく会話が始まっているところ。ここは妄想に過ぎないのだが、場面を詳しく解説していないことでより犯人の心境や考えに近づけている気がする。

 

 

トリックがわかると途中途中出てくる場面が「女性だからか!」と思える部分が多かった。

 

犯人が記者として話を聞いた際に「生意気な口調」といわれているのも女性なのに男っぽい話し方をしているから。被害者の友人と母親が気軽に会ってくれたのも同じ女性同士だからだと思える。ミスリードされるまま主人公が太っただと思っていると、ここで疑問に思う人もいるかもしれない。

 

肝心のトリックには気づけたが肝心の真犯人には至れなかった。小説に出てくるイケメンはあやしいことをすっかり忘れていた。若くてイケメンでエリートは大体犯人。

しかし刑事目線と犯人目線の情報の差も楽しかった。どちらの場面でも読者として知っている情報があるので「知ってるのに」と歯がゆく思え、楽しかった。

最後にハサミ男が真犯人に飛び込んで行く部分も、散々自殺しようとしている場面があったため突飛な行動には思えないことも伏線の張り方に感動した。

結局犯人は捕まらなかったが改心して終わり、ではなく本人も思わないうちに殺人衝動が抑えられない部分もいい終わり方だと思う。

 

 

 

 

 

叙述トリックはネタを知ってしまったら楽しみが半減するともいわれているらしいが、この作品はトリックがわかっても隅から隅まで楽しかった。面白かった理由は叙述トリックだけで終わっていない部分だと思う。刑事目線と犯人目線、犯人が一人だけではないことなど、この要素だけでもう一冊かけてしまえるくらい盛り込んでいるため面白い。読んだ後は誰にでも進めたくなってしまう。

ここで気づいたのだが、むしろ最初に犯人が女性だと気づかせようとしてるのかもしれない。わかった気になって慢心して読み進め、真犯人で衝撃を与える…考えすぎかもしれない。